大崎事件決定論評

大崎事件の,最高裁による再審開始決定取消決定文が公開された。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/758/088758_hanrei.pdf

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/759/088759_hanrei.pdf

 

大崎事件についてさほど知識を持っておらず,また,当然証拠関係を全く見ていないので,決定文限りの論評であることを前提としていただきたい。

 

今回,弁護人が新証拠として主張したO鑑定(略語は決定文に倣う。以下同じ。)について,原々決定も原決定も新証拠として認めたが,最高裁はこれを認めなかった。

その認めなかった理由は,すごくざっくりいうと

⑴あんたの判断根拠となった情報は少ないし色々問題だよね

⑵あんたは色々検討していないよね

というのを「問題点」として挙げ,他の証拠も見てみましょうということになり,

⑶やっぱ他の証拠強いわ

ってことである。

 

今回の決定は正直,意味不明といわざるを得なかった。

決定文によれば,「O鑑定の骨子は,①頸部圧迫による窒息死の死体であれば,圧迫部上方や顔面の鬱血を必ず認め,頸部筋肉内出血を大半に認める,また,腹臥位で遺棄された場合 には,体の前面に死斑,血液就下を認める,腐敗が進むと,鬱血,死斑,血液就下 は黒くなるはずであり,白くなることも消えることもない,ところが,Cの死体は,顔面,前頸上部及び胸部の外表並びに前頸部及び胸部の筋肉が白っぽく,前記の各所見をいずれも欠いており,タオルで頸部を力一杯絞めて殺したとする確定判決の認定事実と矛盾する,②死体の右腹部及び胸部の変色は,深層に,肋骨骨折による胸壁出血,腎損傷による後腹膜下出血,骨盤骨折による骨盤腔軟部組織出血等 の存在を示唆するもので本来切開すべきであるところ,I旧鑑定はこれを怠っている,死斑,血液就下,腐敗血管網を認めず,体の右側に打撲によると推定される広範な出血を認めるCの死因は,農道上の発見状況も勘案すれば,出血性ショックである可能性が極めて高い」

というもののようである。

 

私は,②の方に関しては,推論が含まれているため,これ自体がそこまで説得力があるとは,私としては思わない。

しかし,①の方については,確定審の認定に矛盾を突きつけるものであるため,これが決定的なのではないかと感じる。

ただ,この内容自体は,おそらく第1次再審時におけるI新鑑定とJ鑑定で出ていたものだったのだろう。しかし,この時点で共犯者とされた人物らの供述の信用性は決定的に落ちるはずなのではないか。これは殺害態様という,核心の核心の核心部分である。

しかし,第1次再審はこれを葬った。

そこにこの②があると,前記のとおりこれ自体はそこまで説得力がないとしても,①とあわせれば,確定審の死因の認定が誤りであることを指摘した上で,さらに出血性ショックの可能性を示唆するものであって,ダメ押し的な位置づけになりうるだろう。

 

ところが,最高裁は,さまざまな難癖をつけまくった。

写真しか見ていない鑑定人などいくらでもあるし,おたくら裁判所はそれでもさんざん信用性を認めてきたのではなかったか(私が担当した事件では,そうされた経験がある。)。

唯一,①について疑義を挟む(と私が思える)のは,

「また,P鑑定により,絞殺であっても鬱血がないかこれが少ない場合や頸部筋肉内出血が明瞭でない場合があること,腐敗血管網は必ずしも腐敗した死体の全例に見られるものではないこと,血液就下等が見られないというだけで死因を出血 に関連するものと推定することはできないことなどが指摘されている。」

という,部分である。

しかし,P鑑定の信用性については何の評価も加えていない。

ここの見解の対立は非常に重要に思えるのだが。

 

それで,そういった科学的推論に対して難癖をつけまくった後,”死体が埋められていました”という事実からさまざまな「供述証拠」の信用性を認めて共犯者供述を丸呑みにし,O鑑定は合理的な疑いを抱かせるものではないとした。

 

結局,死体が埋められていた+共犯者の自白で全て決まっている。絞殺と矛盾した所見だと言っているのに。今回はさらに,別死因の可能性を指摘しているのに。

 

全く美しくない論理である。

本当に”最高裁”が書いた文章なのか,と驚いてしまう。

袴田事件の再審開始決定を東京高裁が取り消した昨年の決定の理屈の方が,まだ納得できた(問題はあるにせよ。)。

 

 

 

まあ,証拠を見ていないので,私の論評も自ずと限界がある(最高裁風)が,正直,決定文限りでは,論理的な判断とは言いがたいものであった。